計数工学科の数理情報工学実験はどんな実験?

この記事は物工/計数 Advent Calendar 202223日目の記事です。

はじめに

計数B3のYAOです。いつも数理実験とはどんな実験をやっているのかという質問されたので、工学系で数理を勉強しようとする人や興味がある方に簡単に紹介させていただきます。最後には、数理を勉強してきた学生として、感想を一言だけ書きました。

 

統計手法

   3 つ以上の項目の傾向をとらえるには、2つの項目のようにそれぞれの相関を見るだけ不十分です。例えば, ある1 つの項目を固定したときに他の2 つの項目の相関がどのようになるかは不明です。そのため、 3 つ以上の項目の「絡み」をとらえるために、共分散選択アルゴリズムによるグラフィカルモデリングを用います。

 正当性などの証明を省きますが、要するに、2つの項目ごとに辺を結ぶ無向グラフを作り、相関を求めて、この相関行列の逆行列に関する制約から選び(共分散選択)、相関が低い(基準はAICモデルを用いた)2つの項目を繋ぐ辺を削除するという流れになります。

 具体的には、47 都道府県の人口と面積, 進学率, 高卒就職率, 平均月収, 平均身長(男性)という6 つの項目の相関関係を解析します。

 まず、大雑把に、2つの項目のそれぞれの相関を見て、散布図を作ります。

 次には、この相関行列の逆行列に関する制約から選び(共分散選択)、以下のように相関の低い辺を削除して、各項目の相関関係をもっとはっきり見えるようになりました。

 このような結果を左から右へ簡単に解釈してみると、実際、面積の大きいほど総人口数が多くなる傾向があるが、気候や経済面などの要因もあるので、弱い相関関係があることはグラフで見られます。

 また、比率や平均を計算する際に、総人口数からの影響も考えられるので、平均収入と進学率、高卒就職率の相関関係を解釈できし、さらに、平均収入が高く、教育への投資も高いので、進学率も高くなる。それに、進学率と高卒就職率の負の相関関係は明らかで、進学した人は就職しないということになります。

 最後に、 身長にかかわる要因の中で遺伝の要因は大きく関わっていることは周知の事実であるが、運動や影響, 経済・文化水準の影響もあるので、教育に投資する人も子供の身体・心理状況に気を配るので、平均身長と進学率は弱い正の相関関係となります。

離散手法-ウェブグラフ

 ウェブページとリンクをそれぞれノード(節点) とエッジ(辺) とに見立てた「ウェブグラフ」を対象とし、ウェブグラフの構造を解析することを目的とします。

 具体的には、例えば、深さ優先探索でウェブグラフを巡り、 ファイル種類毎のヒストグラムを作ることで、ウェブサイトの構成に関して分析できるし、さらに頂点間の距離を求め、平均距離を求めます。

 また、「多くのページからリンクされているページは重要である」という考えに基づいて、ウェブグラフ上の各ページ(頂点)に対して重要度の得点を割り振るというPage Rank を求めることで、得点の低いページの削除によるウェブサイトのシェイプアップが行えます。

 これ以外にも、色々できますが、アルゴリズムの話になるので、興味のある方は幅優先探索深さ優先探索、強連結成分分解などをキーワードとして調べてみてください。これにより、ページの構成が合理かどうかを判断し、また改善することができます。

 実際、算法数理工学という授業で様々なアルゴリズムを勉強しましたが、そこには、とてもシンプルで賢いアルゴリズムがあり、私はとても感心しています。例えば、ソートと最大配列和問題(https://qiita.com/pizyumi/items/c78daf4a25cf36765c50)。

数値手法(数値計算)

 片持はりのたわみの形状を求める問題を考えます。具体的に、はりの全ポテンシャルエネルギーを求め、最小ポテンシャルエネルギーの原理に従い、全ポテンシャルエネルギーが最小となる各位置のたわみを求めます。

 実際に求める際には、厳密解を求めるより、有限要素法を用い、以下で示した通りに、分割が多くなるにつき誤差が小さくなります。このように変分問題を数値計算します。

 2Aの授業でも、数値計算という授業があり、常微分方程式や数値積分をしたことがあります。

カウスシステム

 Chua回路の数値シミュレーションを行い、実験で「アトラクター」を観察する。

 まず、以上の回路図で示した通りに、回路の微分方程式数値計算で解き、得られた二つコンデンサー両端の電圧と一つのコイル両端の電流の値を図式化します。グラフの形状は、Chua回路の可変抵抗器の抵抗値によって変化します。

 このように、「アトラクター」が観察できます。ざっくり言うと、アトラクターとは、その周囲の軌道を引き寄せるような特性を持つ領域のことです。さらに、一度その領域に引き寄せられた軌道は、その領域内に留まることになります。構造や性質によってさらなる細かい分類があります。

 次は、実際に回路を作り、可変抵抗の抵抗値を様々な値に設定することで、同じぐらいのグラフが得られ、シミュレーションの結果を確かめます。

感想

 数学は昔から非常に抽象的で難しい学問とされてきました。 実験といっても、実物を対象とするわけでなく、数値シミュレーションやアルゴリズムの実装などをします。位相幾何学群論の授業では、厳密な定義と退屈な定理のある仮想の世界を考えているような錯覚に陥ったものです。

 しかし、実際には、数学と呼ばれるものも、論理的な健全性に基づく合理的な演繹と証明である。 曇り空を見て雨が降ると思うようなものですが、場所や気流などから雨が降る確率を予測するには、それなりの数理モデル(データ同化)が必要です。 方程式の解法を学び、多項式の解を求めたいのと同じように、どんな方程式が因数分解できるかを厳密に証明するために群論が必要なのです。 数学の定義や定理の裏には、小説『三体』の作者が書いた短編小説「朝闻道」(世界の真理を教えてくださったら、亡くなっても惜しくない)に書かれているように、数学者の宇宙の真理への探究心があるのです。

 その一方で、厳密さを追求するあまり、世の中はこうした厳密な計算通りに動いてはくれません。これこそ、カウスシステムで暮らした楽しさではないでしょうか。ところで、明日の降水確率が35%だったら、傘を持っていきますか?